Jupyter Notebook はコード・出力・解説文を 1 ファイルにまとめられるため、株式分析のような「結果と解釈をセットで残す」作業に向いています。一方で、書き方を意識しないと「動かない」「読みにくい」「再現できない」ノートが量産されがちです。

本記事では、Jupyter を 読み物として通用する分析ノート に仕上げるための型を、セル設計・実行順序の管理・出力整理の観点から示します。

目次

  1. インストール
  2. Notebook の構造を最初に決める
  3. 目的
  4. データソース
  5. 読み込み
  6. 前処理
  7. 分析
  8. 結果
  9. 1 セル 1 トピック
  10. Markdown セルで「なぜ」を書く
  11. 前処理
  12. 実行順序を上から下へ揃える
  13. 乱数の種を固定する
  14. 出力サイズを抑える
  15. チャートはセルの末尾で表示する
  16. 依存関係を冒頭に明示する
  17. ファイルパス・APIキーは設定セルにまとめる
  18. バージョン管理(.ipynb と diff)
  19. エクスポート

インストール

Terminal window
pip install jupyterlab pandas matplotlib
jupyter lab

検証バージョン: Python 3.12.5 / JupyterLab 4.2 / pandas 2.2.3

Notebook の構造を最初に決める

何も考えずに上から書き始めると、後半でセルの順序が崩れて再実行できなくなります。先に大きな見出しだけ Markdown セルで作るのが定石です。

# 7203 のリターン分布分析
## 目的
## データソース
## 読み込み
## 前処理
## 分析
## 結果
## まとめ

この骨組みを Markdown セルで先に置き、コードセルは各見出しの下に追加していきます。読み返すときに目次として機能します。

1 セル 1 トピック

長すぎるセルは、書いた本人でも何をしているか追えなくなります。ひとつのセルで扱う内容を 1 トピックに絞り、ステップが切り替わったら別セルに分けます。

# セル A: データ読み込み
import pandas as pd
df = pd.read_csv("prices.csv", parse_dates=["Date"])
df.head()
# セル B: 前処理
df = df.sort_values(["Code", "Date"]).reset_index(drop=True)
df["return"] = df.groupby("Code")["C"].pct_change()
df.head()

セルの末尾は 値を出力するだけの行 にすると、Jupyter が自動で表示してくれます。print(df.head()) と書くより df.head() のほうが整形された表が見られます。

Markdown セルで「なぜ」を書く

コードコメント(#)は「なぜそうしているか」を 1 行で書く場所、Markdown セルは「このセクションの目的・前提・解釈」を書く場所、と役割を分けます。

## 前処理
Code × Date のソートを行い、銘柄ごとの単純リターンを計算します。
銘柄をまたいでリターンを計算するとずれるため、`groupby("Code")` を挟みます。
df = df.sort_values(["Code", "Date"]).reset_index(drop=True)
df["return"] = df.groupby("Code")["C"].pct_change()

このペアを繰り返すと、コードと解釈が交互に並ぶ「読み物としてのノート」になります。

実行順序を上から下へ揃える

Jupyter ではセルを任意の順番で実行できますが、これが再現性を壊す主因です。最終版は 上から順に実行できる状態 にします。

仕上げの確認手順は次の通りです。

  1. メニューから「Restart Kernel and Run All Cells」を実行
  2. すべてのセルがエラー無く完走することを確認
  3. 出力(数値・図)が想定と一致することを目視チェック

これを通った Notebook だけを「公開可」と判断します。チェックが面倒に思えても、再現性が保証されない分析ノートは時間が経つと無価値になります。

乱数の種を固定する

確率的な処理(乱数生成・ブートストラップなど)を含む場合、種(seed)を固定しないと実行のたびに結果が変わります。

import numpy as np
rng = np.random.default_rng(42)
sample = rng.choice(df["return"].dropna(), size=1000, replace=True)

default_rng(42) のように具体的な数値を渡すのが、現代的な NumPy の書き方です。グローバルな np.random.seed は副作用が大きいため避けます。

出力サイズを抑える

巨大な DataFrame を print するとノートが重くなり、git に乗らなくなります。表示する行数は head / tail / sample で絞ります。

df.head(10)
df.sample(5, random_state=0)

統計サマリは describe を使うと、生データを長々と貼らずに済みます。

df.groupby("Code")["return"].describe().round(4)

チャートはセルの末尾で表示する

matplotlib のチャートはセルの末尾で fig または plt.show() を呼ぶと表示されます。表示と保存を両立する書き方は次の通りです。

import matplotlib.pyplot as plt
fig, ax = plt.subplots(figsize=(8, 3.5))
ax.hist(df["return"].dropna(), bins=40)
ax.set_title("Daily return distribution")
fig.tight_layout()
fig.savefig("return_hist.png", dpi=120)
fig

セルの最後で fig だけを置くと、Jupyter は _repr_png_ などを通じて表示します。plt.close(fig) を末尾に入れるとメモリ節約にはなりますが、出力も消えるので、表示が必要な場合は呼びません。

依存関係を冒頭に明示する

ノートの先頭セルには、Python と主要ライブラリのバージョンを残しておきます。半年後に「動かない」となったときの一次情報になります。

import sys, pandas as pd, numpy as np, matplotlib
print("Python:", sys.version.split()[0])
print("pandas:", pd.__version__)
print("numpy :", np.__version__)
print("matplotlib:", matplotlib.__version__)

ファイルパス・APIキーは設定セルにまとめる

入力ファイルパス・API キーは 1 つのセルに集約し、後段のセルからはその変数だけ参照する形にします。後で別データに当てるときの差分が小さくなります。

DATA_PATH = "data/prices.csv"
OUT_DIR = "outputs/"
TICKERS = [7203, 9984, 8306]

API キーはコードに直書きしない原則を守ります。os.environ 経由で読むのが基本です(#2-5「Jupyter Notebook / JupyterLab 入門」)。

import os
JQ_TOKEN = os.environ["JQUANTS_TOKEN"]

バージョン管理(.ipynb と diff)

.ipynb は JSON 形式のため、git diff が見にくいのが定番の悩みです。対策の選択肢を表にまとめます。

ツール役割
nbstripoutコミット時に出力セルを自動で削る
jupytext.ipynb.py を同期し、差分は .py で見る
nbdimeNotebook 専用の diff / merge ツール

学習用なら nbstripout をかけておくだけでも、コミットが軽くなります。

Terminal window
pip install nbstripout
nbstripout --install

エクスポート

完成した Notebook は HTML や PDF に書き出して共有できます。

Terminal window
jupyter nbconvert analysis.ipynb --to html --output report.html

ブログ記事化したいときは Markdown 出力(--to markdown)も便利です。

生成AI へのプロンプト例

Notebook の構成自体を生成AI に下書きさせると、抜け漏れが減ります。

次のテーマで Jupyter Notebook の骨組み(Markdown セルとコードセルの並び)を
書いてください。実装はプレースホルダで構いません。
テーマ: 5 銘柄の日次リターンの分布比較
要件:
- セクションは「目的 → データ → 前処理 → 統計 → 可視化 → 解釈」
- 各セクションの冒頭に Markdown セルで 2〜3 行の説明
- セルの末尾は値出力(print ではなくオブジェクトを置くだけ)
- 上から実行して動く順番で
- pandas 2.2 / matplotlib 3.9 系

「セルの並び」「コメントの位置」「最終形の動作」を伝えると、構造のしっかりしたノートが生成されます。

まとめ

  • 先に Markdown セルで骨組みを置き、コードは各見出しの下に書く
  • 1 セル 1 トピック、Markdown は「なぜ」、コードコメントは「なぜ」
  • 完成版は Restart and Run All で再現性を確認
  • 乱数の種は固定、依存ライブラリのバージョンは冒頭に出力
  • .ipynb の差分管理には nbstripoutjupytext