Jupyter Notebook はコード・出力・解説文を 1 ファイルにまとめられるため、株式分析のような「結果と解釈をセットで残す」作業に向いています。一方で、書き方を意識しないと「動かない」「読みにくい」「再現できない」ノートが量産されがちです。
本記事では、Jupyter を 読み物として通用する分析ノート に仕上げるための型を、セル設計・実行順序の管理・出力整理の観点から示します。
目次
- インストール
- Notebook の構造を最初に決める
- 目的
- データソース
- 読み込み
- 前処理
- 分析
- 結果
- 1 セル 1 トピック
- Markdown セルで「なぜ」を書く
- 前処理
- 実行順序を上から下へ揃える
- 乱数の種を固定する
- 出力サイズを抑える
- チャートはセルの末尾で表示する
- 依存関係を冒頭に明示する
- ファイルパス・APIキーは設定セルにまとめる
- バージョン管理(.ipynb と diff)
- エクスポート
インストール
pip install jupyterlab pandas matplotlibjupyter lab検証バージョン: Python 3.12.5 / JupyterLab 4.2 / pandas 2.2.3
Notebook の構造を最初に決める
何も考えずに上から書き始めると、後半でセルの順序が崩れて再実行できなくなります。先に大きな見出しだけ Markdown セルで作るのが定石です。
# 7203 のリターン分布分析
## 目的
## データソース
## 読み込み
## 前処理
## 分析
## 結果
## まとめこの骨組みを Markdown セルで先に置き、コードセルは各見出しの下に追加していきます。読み返すときに目次として機能します。
1 セル 1 トピック
長すぎるセルは、書いた本人でも何をしているか追えなくなります。ひとつのセルで扱う内容を 1 トピックに絞り、ステップが切り替わったら別セルに分けます。
# セル A: データ読み込みimport pandas as pddf = pd.read_csv("prices.csv", parse_dates=["Date"])df.head()# セル B: 前処理df = df.sort_values(["Code", "Date"]).reset_index(drop=True)df["return"] = df.groupby("Code")["C"].pct_change()df.head()セルの末尾は 値を出力するだけの行 にすると、Jupyter が自動で表示してくれます。print(df.head()) と書くより df.head() のほうが整形された表が見られます。
Markdown セルで「なぜ」を書く
コードコメント(#)は「なぜそうしているか」を 1 行で書く場所、Markdown セルは「このセクションの目的・前提・解釈」を書く場所、と役割を分けます。
## 前処理
Code × Date のソートを行い、銘柄ごとの単純リターンを計算します。銘柄をまたいでリターンを計算するとずれるため、`groupby("Code")` を挟みます。df = df.sort_values(["Code", "Date"]).reset_index(drop=True)df["return"] = df.groupby("Code")["C"].pct_change()このペアを繰り返すと、コードと解釈が交互に並ぶ「読み物としてのノート」になります。
実行順序を上から下へ揃える
Jupyter ではセルを任意の順番で実行できますが、これが再現性を壊す主因です。最終版は 上から順に実行できる状態 にします。
仕上げの確認手順は次の通りです。
- メニューから「Restart Kernel and Run All Cells」を実行
- すべてのセルがエラー無く完走することを確認
- 出力(数値・図)が想定と一致することを目視チェック
これを通った Notebook だけを「公開可」と判断します。チェックが面倒に思えても、再現性が保証されない分析ノートは時間が経つと無価値になります。
乱数の種を固定する
確率的な処理(乱数生成・ブートストラップなど)を含む場合、種(seed)を固定しないと実行のたびに結果が変わります。
import numpy as nprng = np.random.default_rng(42)sample = rng.choice(df["return"].dropna(), size=1000, replace=True)default_rng(42) のように具体的な数値を渡すのが、現代的な NumPy の書き方です。グローバルな np.random.seed は副作用が大きいため避けます。
出力サイズを抑える
巨大な DataFrame を print するとノートが重くなり、git に乗らなくなります。表示する行数は head / tail / sample で絞ります。
df.head(10)df.sample(5, random_state=0)統計サマリは describe を使うと、生データを長々と貼らずに済みます。
df.groupby("Code")["return"].describe().round(4)チャートはセルの末尾で表示する
matplotlib のチャートはセルの末尾で fig または plt.show() を呼ぶと表示されます。表示と保存を両立する書き方は次の通りです。
import matplotlib.pyplot as plt
fig, ax = plt.subplots(figsize=(8, 3.5))ax.hist(df["return"].dropna(), bins=40)ax.set_title("Daily return distribution")fig.tight_layout()fig.savefig("return_hist.png", dpi=120)figセルの最後で fig だけを置くと、Jupyter は _repr_png_ などを通じて表示します。plt.close(fig) を末尾に入れるとメモリ節約にはなりますが、出力も消えるので、表示が必要な場合は呼びません。
依存関係を冒頭に明示する
ノートの先頭セルには、Python と主要ライブラリのバージョンを残しておきます。半年後に「動かない」となったときの一次情報になります。
import sys, pandas as pd, numpy as np, matplotlibprint("Python:", sys.version.split()[0])print("pandas:", pd.__version__)print("numpy :", np.__version__)print("matplotlib:", matplotlib.__version__)ファイルパス・APIキーは設定セルにまとめる
入力ファイルパス・API キーは 1 つのセルに集約し、後段のセルからはその変数だけ参照する形にします。後で別データに当てるときの差分が小さくなります。
DATA_PATH = "data/prices.csv"OUT_DIR = "outputs/"TICKERS = [7203, 9984, 8306]API キーはコードに直書きしない原則を守ります。os.environ 経由で読むのが基本です(#2-5「Jupyter Notebook / JupyterLab 入門」)。
import osJQ_TOKEN = os.environ["JQUANTS_TOKEN"]バージョン管理(.ipynb と diff)
.ipynb は JSON 形式のため、git diff が見にくいのが定番の悩みです。対策の選択肢を表にまとめます。
| ツール | 役割 |
|---|---|
nbstripout | コミット時に出力セルを自動で削る |
jupytext | .ipynb と .py を同期し、差分は .py で見る |
nbdime | Notebook 専用の diff / merge ツール |
学習用なら nbstripout をかけておくだけでも、コミットが軽くなります。
pip install nbstripoutnbstripout --installエクスポート
完成した Notebook は HTML や PDF に書き出して共有できます。
jupyter nbconvert analysis.ipynb --to html --output report.htmlブログ記事化したいときは Markdown 出力(--to markdown)も便利です。
生成AI へのプロンプト例
Notebook の構成自体を生成AI に下書きさせると、抜け漏れが減ります。
次のテーマで Jupyter Notebook の骨組み(Markdown セルとコードセルの並び)を書いてください。実装はプレースホルダで構いません。
テーマ: 5 銘柄の日次リターンの分布比較
要件:- セクションは「目的 → データ → 前処理 → 統計 → 可視化 → 解釈」- 各セクションの冒頭に Markdown セルで 2〜3 行の説明- セルの末尾は値出力(print ではなくオブジェクトを置くだけ)- 上から実行して動く順番で- pandas 2.2 / matplotlib 3.9 系「セルの並び」「コメントの位置」「最終形の動作」を伝えると、構造のしっかりしたノートが生成されます。
まとめ
- 先に Markdown セルで骨組みを置き、コードは各見出しの下に書く
- 1 セル 1 トピック、Markdown は「なぜ」、コードコメントは「なぜ」
- 完成版は Restart and Run All で再現性を確認
- 乱数の種は固定、依存ライブラリのバージョンは冒頭に出力
.ipynbの差分管理にはnbstripoutかjupytext